相原正明写真夜話Ⅸ

デジタルカメラの高性能化により撮影スタイルも大きく変化している。その中でいちばん大きいのが、超高感度性能による星景写真だろう。ついこの前まではISO6400で撮れる すごい!!と言っていたのが、いまやISO2000 , 30000へたをするとISO40000でも実用的に撮影できる。開放値の明るいレンズを使えば1secで天の川も撮影ができるほどだ。もう写真家には安眠できる夜はなくなったと言ってもよい。

2004Talking to spirit of the land サンプル 322 2004Talking to spirit of the land サンプル 329
※画像にアイコンを合わせると大きい画像が見られます  

1994年 西オーストラリア州 バングルバングル。4億年前の海底が地殻変動で隆起してできた大渓谷地帯。その景観は他の惑星みたいだった。僕は初めて 夜の景色をこの異星のような景色で撮ることになった。できれば夜に撮ることで、他の天体で撮ったイメージを出したかった。オーストラリアは乾燥した大陸。満月の晩になると、乾燥しているので空気中の光の透過率が良いので、本が読めるほど明るい。それまでも何度か月夜の晩にキャンプで、深夜の景色がこの世のものとは思えない光景を目の当たりにしていた。もしかしたら夜撮れれば、このイメージが撮れるかもしれないと思った。だが当時はフィルムのみ。ISO400のフィルムが実用上最高感度。そうすると満月の夜だったかろうじて写るかもしれない。あわよくば14夜、16夜ぐらいも写るかもしれない。

2004Talking to spirit of the land サンプル 337
※画像にアイコンを合わせると大きい画像が見られます

僕は、真冬の日本で雪景色を満月で撮ってみた。砂漠での空気感と反射が雪のゆるが近いと感じた。フィルムはRDP100。あとプラス1増感のベルビア50。結果はどちらも失敗だった。明るさはそこそこ満足できたが、色がNG月の光の色温度で景色が、全体に赤かぶりしてしまった。そこで考えたのがタングステンフィルム。当時から不動産の室内撮影をしていた。部屋を柔らかく撮るためにタングステン光を使い、タングステンフィルムで撮ると、赤身が押さえられることを知っていた。では夜にタングステンを使って撮る。これで2回目のテストに臨んだ。結果は大成功。それでオーストラリアのロケへ臨んだ。

2004Talking to spirit of the land サンプル 321
※画像にアイコンを合わせると大きい画像が見られます

撮影した作品(321jpg)はまさに別の惑星のようだった。現像した作品を、友人に「NASから火星の写真をもらった」と言ったらみんな信じた。それぐらいインパクトがあった。それ以来、夜を撮るのは僕の撮影行程ではルーティーと化してきた。そしてデジタル化になり、今では昼間と同じように夜が撮れる。そして世間では星景写真と呼ばれる言葉もできてきた。これはこれでとてもうれしい流れだと思う。

※画像にアイコンを合わせると大きい画像が見られます  

ただ中にはキワモノ的なレイヤードやHDRあるいは画像処理の物も増えてきて、自分が宇宙を畏怖して撮る。そんな宇宙感を感じさせない、ただ面白さだけの写真も増えきた。やはり対となる昼間のランドスケープの作品もしっかり撮れて、初めて夜の作品が生きてくると思う。面白さだけではない、大自然、宇宙を意識し畏怖し、一体にならないと夜の写真撮れないと思う。コロナが終わったら、真っ先に行きたいのがバングルバングルの夜。何億年も彼方の光と宇宙からの声と向き合いたい。

20201213 写真夜話Ⅸ

※文章・写真の無断転用・掲載は禁止です。文章・写真の著作権はすべて相原正明氏に帰属します