相原正明写真夜話Ⅶ

風景の失敗

ランドスケープを撮影していると、予想もしない素晴らしい光景、特に大自然が作り出す、想像を超えた自然現象に出くわすことが、たびたびある。ときには驚きのあまり、撮るのさえ忘れてしまうこともある(プロとしてはいけないことですが 笑) じつはこの大自然が作り出した、めった眼にすることが出来ない自然現象が、風景写真を撮る時に失敗する大きな原因の1つにもなっている。これは自分でも、経験がある。

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例えば、夕暮れの風景を狙っていたら、突然予想もしないところに虹が出た。あるいはめったに見れないところに、サンピラーが現れた。撮影する。もう感動でいっぱい。めった見ることが出来ないところに虹やサンピラーが現れた気持ちだけが先行して、落ちついてファインダーを見ていない。被写体を見ていない。でもこれは自分の思い出のワンシーンとしてとても大切。生涯忘れない体験の場合もある。だが、絵として作品としてはどうだろう。感動した!!という領域を出ていない、記録という領域を出ていない。それを今一度冷静に考える必要がある。

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これは特に苦労して、アプローチした場所に多い。海外の秘境、絶景あるいは登山などでもしばしばある。フォトコンテストでもこの手の作品は良く見受けられる。オーロラや、虹、あるいはアルプスなどがやはり多い。でも感動の向こうにあるもの、作品性としては残念なものが多い。今回 のブログの写真でも虹がある。やはり虹を活かすための絵作りをしている。単にすごいではなく、自然現象を活かす構図や色づくりをしている。すごい風景に出会ったとき、まれにみる自然現象に出会ったときこそ大切なのは、そこで深呼吸をして気持ちを落ち着かせて、自分としては、この目の前の光景のどこが好きになったのか?どう料理するか数秒でよいので自問自答すること。そしてどんな珍しい自然現象でもそれをわき役に据える勇気を持つこと。そうしないと、いつしか撮った写真が珍しもの自慢、遠くに行ったもの自慢になってしまう。

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珍しいも物、遠く行って撮るものでないとよい作品と言えないかというと、Noである。だとするならば、アポロの宇宙飛行士が月面で撮った写真が人類史上最高の写真となる。一番遠くで一番珍しいので(実際に月に行っていればの話ではあるが 爆)ただ彼らが、月面で撮ったのは記録であるとともに、素晴らしい作品であることは紛れもない事実であることは間違えないで欲しい。ついつい珍しい事象に目を奪われて作品としてしまうと、「珍しいね」で1回はみんな褒めてくれる。だがお笑い芸人さんの1発芸と同じで、次がない。オーストラリアの撮影を始めたばかりのころ、ダイナミックな、日本では想像できない風景ばかり狙っていた。それこそ、遠くに行ったもの自慢の風景(笑)あるとき90年代半ば、当時の有名写真編集者の方に見ていただいた。彼の講評は「わーすげーという風景も大事だが、足元の風景をじっくり見る必要もあると思うな」と言われた。当時は、正直むっとした。編集者の方はオーストラリアの砂漠に行ったことがない。僕は砂漠に足元の風景なんかあるわけない。砂しかないのだから、何を言ってんのだかと思った。

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それから3ヶ月後、オーストラリア中央部の砂漠でロケをしていた。フィルムを交換する時、足元のカメラバックを見たとき、夜明けの光で、砂の上に残された、と影の足跡に眼が凍りついた。足元の風景があった。足元の風景はなかったのではなく、自分が見ていなかっただけ。それ以来 遠景を撮っているときほど、足元を、立っている周りを見回すことにしている。秋から冬 季節の変わり目。だが予想もしない自然現象に出くわすことも多々ある。そんなとき、足元の風景奇をてらわない絵作りを考えて欲しい

2020/10/25
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