相原正明写真夜話Ⅷ

 こちらのB&Wフォト企画さんで僕がやらせていただくワークショップでは、スナップ撮影会がほとんど。ランドスケープとか鉄道写真 あるいはモデル撮影会とかは行っていない。それはなぜか?僕は基本的にスナップがすべての写真の基本であり、一番目指す方向であり、絵画と写真の大きな違いだと思うからだ。スナップはある意味、すべてが偶然との出会い。悪く言えば相手次第の受け身的撮影。出会いの瞬間にひらめきとで構図とシャッターチャンス判断し、瞬間の光と影を定着させ、自分の世界観を表現する。一番ある意味難しいかもしれない。カメラを構える余裕すらないかもしれない。

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フォトグラファー駆け出しの下積み時代、広告代理店時代のスタジオのチーフのTさんに撮影技術の相談をしたことがある。(ちなみに僕は代理店時代、営業マンだったので、スタジオの下積みとかはしていないです)今でもそうだが当時は不動産広告の仕事が中心。自分でもモデルルームの撮影や、物撮りを極めないとプロとして使い物にならないなと焦りを感じていた頃だ。そこで不動産広告を撮らせたら神様と呼ばれていたTさんに「物撮りや、ストロボのライティングの上達方法を相談した」そうしたら「そんなことやる暇があったら、自然光で環境写真をもっと極める練習でもしたほうがいいよ。環境写真はすべての基本だから、人工照明は嘘だから。」とアドバイスを受けた。

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皆さんは「環境写真って何ぞや?」と思うはずだ。広告業界の専門用語で、不動産広告で販売物件の周辺の生活環境を写す写真のこと。仮に、自由が丘にマンションを買いたいと思ったら、どんな駅で降りて、どんな商店街があり、そこにはおしゃれなお店やスーパーがあるのか?子供と行く公園で、花見ができるのかな?あるいは家族で散歩する素敵な並木道があるのかな。さらには子供が通う学校はどんな感じ?要は生活に、かかわるすべての情報を写真で可視化して説明する。ただそれだけではない、不動産の購入あるいは契約の100%主導権は女性。なので私が、この町に住んだらおしゃれかもしれない?私がかっこよくお茶をできるカフェがここね!と思わせる写真を撮らないと契約の前に、この物件NGだわ、と物件を見る前に終わってしまう。なので不動産会社はめちゃくちゃなことを言う。

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例えばよくあるのが少し小高い丘にある住宅街は、丘の下が、工場地帯でも、ビバリーヒルズを思わせるイメージのお店や公園を見つけて撮ってほしい。海沿いのテラスハウスだと、たとえどんなに目の前の海に、漁船が海苔の養殖で群がっていようが、タンカーが廃液を垂れ流していようが、「ニースのリゾートみたいに撮って」と言われる。なので、必死で街の良いところを探す。同じ街を3日間は歩き回る。同じエリアを朝、昼、夜。そして時計回り反時計回り、何度も歩き回る位置に最初見つからなかったものも見えてくる。それは見つからなかったのではなく、自分がしっかり見ていなかった。単に眺めていただけ。ある意味 究極のスナップ撮影。

 

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いぜんアドビライトルームの開発の仕事でご一緒させていただいた、ナショジオの伝説と呼ばれた写真家ブルース・ディールさんと撮影の移動の話になったときのことだ。彼は常に車のバックミラーで後方の景色を確認する。向かっていったとき、つまらない景色でも、過ぎ去りながら逆方向から見ると、とんでもない発見があるときもあるからだ。なので常に細かく観察、同じ場所を異なる方向から、異なる高さから、いろいろな視点で見る。それにより日常の中に、あるいは平凡な中に、素晴らしい出会いがある。その練習がスナップ撮影。瞬間の芸術。コロナ禍が過ぎ去ったとき、また皆さんと笑いながら東京の下町で、あるいは公園でスナップのワークショップをしたい。それまで皆さんも、腕を磨いておいてほしい。コロナ禍で遠くに行けなくても自分の家から半径500mで良いのでスナップを撮り続けてほしい。アフターコロナになればきっと素晴らしい撮影ができるはずだ。

 

20201126写真夜話Ⅷ

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